自キャラには可哀想なことをしたと思ってます(棒)

 一つ前の記事で言ってた通り、双子ちゃん遅刻してごめんねSS、じゃなかった、
ハロウィンSSを捧げます。 珍しくガガッと勢いで書けました。
これで11月の記事は2つ書けたぜヘッヘッヘ
あとは来たるべき卒論中間報告(3度目)に備えるだけだな(震)

ファイドラ「こういう自キャラ混ぜたSSって、アンタが変態なせいで、
      分身たる私まで性癖歪んでるキャラみたいにされるんだけど?」

 大丈夫よ、今回はどっちかっつーと不憫枠だから。

ファイドラ「えっ」


↓「しゃーねえな、読んでやるよ! この遅刻魔が!」という方はどうぞこちらへ

 





  "Trick or Treat?"
     If you say that "Dead or Alive!"

  10月31日 AM9:00  ~ゲフェン ゲフェンタワー前~

「ファイドラ、トリックオアトリート~!!」
「お、お菓子くれなきゃイタズラですっ!!」

 本日、晴天。 雲一つない蒼穹がゲフェンの街を覆っている。
 私はこの数日間、ちょっとした野暮用でゲフェンタワーの地下に潜っていた。
久々に浴びる秋晴れの陽光に、目を細めつつ街中を歩いていた、その時だ。
突如、私の目の前に小さな人影が二つ飛び出してきた。
そして、冒頭のセリフを投げ掛けられるに至ったわけである。

 二人は私の良く知る人物だった。 ゲフェンに住む双子の令嬢、アルナとアイリだ。
しかし、その出で立ちは普段とまったく異なるものだった。
赤い服ではなく、黄色を基調としたワンピースの上に黒のローブを羽織っている。
アイリの頭には、リボンをふんだんにあしらった白黒のミニハットがちょこんと乗っていた。
対してアルナが被っているのは、ウサギのような耳が垂れた、大きな紫色の帽子だ。
 双子は、キラキラとした期待に満ち溢れる瞳で、私をジッと見上げている。
……この可愛い生き物達は一体どこからやってきたんだろうか。 おとぎの国からか?
抱き締めたい衝動をなんとか抑えつつも、先程の二人の言葉を脳内で反芻する。
 成程、合点がいった。 そう言えば今日はハロウィンだった。
連日ジメジメした魔物の巣窟に篭っていたせいで、日にちの感覚が取り戻せていない。

『あー……、ゴメンよ、二人とも。 今はお菓子の持ち合わせがないや』

 ジャックからもぎ取ったカボチャなら大量にあるが、これはお菓子とは言えないだろう。
そもそも魔物の落とした食べ物なんざ食わせて、双子が体調を崩したらどうする。
私はそんなこと、断じて許さん。
 しかし、携帯食としてキャンディくらいは持っているべきだったか。
ガッカリさせてしまうだろうかと思いきや、驚くことに二人は満面の笑みを見せた。

「じゃあ、イタズラけってーい!! アルナ!」
「うん! ファイドラさん、一緒にプロンテラまで来てください!」

 右手をアルナに、左手をアイリに引っ張られつつ、プロンテラに向かう。
この反応を見るに、悪戯の方もタップリと計画を練っていたのだろう。
はてさて、この愛くるしい魔女達はどんな悪戯を仕掛けてくれるのか。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  10月31日 AM10:30  ~プロンテラ 某服飾店~

「わ~、やっぱり似合ってる! あたし達の見立てた通りだね!」
「ファイドラさん、すごくカワイイです!」
『………………ありがとね、二人とも』

 そうだな、ハロウィンと言えば仮装だよな。 すっかり失念していた。
双子達の悪戯、それは私に手作りの衣装を着せることだったらしい。
 用意されたのは「人狼〈ワーウルフ〉」の衣装だと思う。 ……多分。
確信が持てないのは、私の人狼のイメージとの乖離があまりにも甚だしかったせいだ。
私はもっと、こう、全身を毛に覆われた、荒々しい獣人を想像してたんだ。

 頭のエルダークラウンは取っ払われ、代わりに狼の耳が鎮座することになった。
首には青いベルトに金の鈴。 ……私は飼い犬か?
恐らく私の髪色に合わせたのだろう、金の……、いっそ水着と呼ぶべきかもしれない毛皮。
肩は剥き出し、臍周りも同様。 胸まで半分露わになっているのには流石に参った。
当然四肢も露出している。 グローブとショートブーツもフワフワのモコモコだ。
 ……そう、一言で表すなら、私が思っているよりずっと「ハレンチ」だったわけだ。
誰だ、この二人にロクでもない入れ知恵をしたのは! 全くもって教育上よろしくない!!
そこの店員、お前か!? さっきからずっと肩を震わせて顔を背けていること、
私はちゃーんと気付いてるんだからな!
何が怖いって、私は採寸をした覚えがないのに、サイズがピッタリだったことである。
 頭を下げ、サラシという名の最後の砦は死守したため、半分ミイラとも言える装いになった。
日中とは言え、これが無いと寒くて堪らないから諦めてもらおう。
……それに、冒険者故致し方ないとはいえ、傷だらけの身体を見せるのは忍びない。

『も、もう着たからいいよね? 脱いでもいいよね?』
「ストーップ!! まだ着替えちゃダメ!!」

 そう叫ぶと、アイリが一枚の紙切れを手渡してきた。
見ると、先端に丸印のついた五芒星が、中心にデカデカと描かれている。
これまた手描きのジャック・オ・ランタンやら幽霊やらが、その星を取り囲んでいた。
 アルナが丸印の一つにハンコを押す。 少々歪ながらも、愛嬌たっぷりの黄色いコウモリだ。
そして、アイリもポケットからハンコを出すと、緑のコウモリで丸印を彩った。
……まさかこのハンコも自作なのか。 凝ってるなあ!

『もしかして……、 スタンプラリー形式なのかな?』
「そ! 先に言っておくけど、仮装してないとハンコは押してもらえないからね」
「後は、スピカさんと、サビクさんと、アルゴルさんにもらってください。
 全部埋めたら、わたし達の家まで来てくださいね」
『……ん、あれ、ルファクは?』
「お兄ちゃんもラリーで回る方の予定なんです。 お菓子を持ってなかったら、ですけど」
「もうすぐ来ると思うよ。 プロンテラのこのお店まで直接来て、って言っといたから」

 哀れなり、ルファクよ。 もっとも、全くもって他人事じゃないわけだが。
 もしや、店の隅に綺麗に折りたたまれている黒のタキシードがそれだろうか。
その脇には大きなカボチャの被り物がでん、と居座っている。
……ジャックかな、と先程まで嫌と言うほど屠ってきた魔物を思い浮かべつつ、見当をつけた。
十中八九仮装はしてこないだろうから、双子なりに考えてのことなのだろう。
 だが、私達二人がどちらも菓子を持っていたら、この仮装計画はおじゃんだったのでは?

「んー、でもお兄ちゃんもファイドラも、頼んだらきっと着てくれると思って……」

 私はスタンプラリーの紙に目を落とす。 先程押された、二匹のコウモリと目が合った。
二人はこの日を心待ちにしてたんだろう。 ハンコも頑張って手作りしちゃって。
わざわざプロンテラまで出向いて、仮装用の衣装を品定めしていたのか。
 ……その想いを無碍にすることなど、誰ができようか!!
いいだろう、この格好でルーンミッドガッツ王国を巡ってやろうじゃないか!!
 笑顔の双子と、ついでに未だ笑いを堪えている店員に見送られ、私は勇んで店を後にした。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  10月31日 AM11:00  ~プロンテラ南 平原~

 しかし、後にして思えば、やはり仮装は辞退するべきだったかもしれない。
街を出た後しばらくして、これから双子に会いに行くのであろうルファクを見かけた。
お菓子が欲しいわけではなかったが、驚かせるのも悪くないと茂みから飛び出した私。
 ……包帯を巻いた奇怪な魔物と間違われ、もう少しで眉間を撃ち抜かれるところだった。
相変わらず物騒な男だが、流石に今回は全面的に私が悪い。

「……何の真似だ?」
『……トリックオア、いや、何でもないですゴメンナサイ』

 諸手を挙げてすぐさま降参の意を示したが、傍から見ると滑稽極まりないだろう。
不審を通り越して、いっそ憐れむような視線を仮面越しに向けられている気がする……。
私は、これ以上ツッコミを入れられる前に先手を打っておいた。

『えっと、ほら、あれだよ。 お宅の妹さん方の可愛い悪戯よ……。
 お菓子を持ってなかったから、代わりにこう、な……?』
「……そうか」

 ……納得されたのが納得いかない。 しかし、私は見逃さなかった。
ルファクが何かを懸念するかのように、一瞬眉を顰めたのを。
こういう時に限って、何を考えたか手に取るように分かるのが悲しい。

『ご明察、あんたも仮装させられるぞ。 立派な衣装が待ってるぞ』
「フン、俺は貴様と違って準備は怠っていない。 菓子なら用意してある」

 流石だぜ、お兄ちゃん。 だが、私がこのままみすみす逃がすと思うてか。

『へー、そっかー。 あの衣装、良く出来てたのになー。
 あの子達、ルファクに悪戯できなくてガッカリするかもなー』
「な、に……!!」

 さて、ルファクがお菓子と引き換えに、己のプライドと身の安全を確保するか、
それとも双子の笑顔のために、敢えてあの悪戯に乗り仮装するか……。
 なんとも気になるところだが、私もなるべく早く着替えたい。
顔色こそ変わらないが、脳内では恐ろしい程の葛藤を始めたであろうルファクに別れを告げ、
イズルードに向かって歩を進める。


 ……それにしても。 私は一度だけ振り返って、ルファクの背を見た。
 彼の隣に立っている、いや、浮いていると言うべきか、
満面の笑みを浮かべたフランケンシュタインは誰だったんだろう。
元の顔が全く分からないほどの特殊メイクだった。 いやはや。
血糊と縫い痕に覆われた顔でニッコリと笑まれても怖いだけなのだが……。
 それでも私が叫び出さなかったのは、その笑顔に奇妙な懐かしさを覚えたからだ。 


 ハロウィンとは本来、死者が現世に戻ってくる日だと聞いたことはあるが。
……まさか、な。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  10月31日 AM11:30  ~イズルード デイブレイク~

 なるべく最短距離を辿れるようにしたかったのだが、早くも出鼻を挫かれた。
店内はハロウィンの飾りつけで華やかだったが、そこにアルゴルの姿はなかったのだ。

「いらっしゃい。 おや、誰かと思えばファイドラじゃないか」
「あら、今日は随分ダイタンな恰好ねぇ?」
『こんにちは、ランドルフさん。 今日の私は人狼ですよ。 ……恐らくね。
 イルさんは、えーっと、何と言うか、その、……見違えましたね』
「ウフフ、分かっちゃう? 今のアタシは恋のキューピッドよ!」

 悪戯っぽく笑うと、イルさんはハート型の鏃が付いた木矢を振ってみせる。
オレンジ色のランプに照らされた天使の輪と、背中の白い翼が眩しい。
 他人を結ぶキューピッドになってしまったら、自分の恋はどうするのか?
そんな疑問が芽生えたが、これは言わぬが花かもしれない。

『アルゴルはいないんですか? ハンコもらえないと、ずっとこの格好なんですが……』
「ああ、本当はいるはずだったんだが、食材がいくらか足りないことに気付いてね。
 悪いんだが、さっきフェイヨンまで向かってもらったんだよ」

 ランドルフさんは仕事中のためか、大きな角を2本生やしたメットという簡素な出で立ちだ。
伝説と名高いドワーフの類だろうか。

 この街でも食品は幅広く取り扱っているのに何故かと聞けば、辛口ソースの補充なんだと。
彼曰く、この近辺で出回っている品は、辛味が少々強烈過ぎるため、
少し遠出になるがフェイヨンの方まで足を運んでもらったらしい。
確かに、あそこのソースは辛さの中にも、地元の山菜の滋味が詰まって美味い。
料理人として、そのこだわりに妥協は許されないのだろう。 
 先にスピカに会いにアルベルタまで行き、その足でフェイヨンまで赴くとしようか。
森の奥にある村だから、人目を忍ぶにはうってつけだというのもある。


 それにしても、アルゴルもすっかりデイブレイクの店員が板についてきた。
願わくば、これが彼の日常となってくれることを……。
 アルベルタ行きの快速船に揺られながら、しんみりとそんなことを考えていた。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  10月31日 PM12:30  ~アルベルタ 住宅地~

 ……おお、神よ! このコソ泥めにまさか褒美を与え給うたとは!!
今、私の目の前にはスピカが立っている。 勿論、彼女も仮装済みなのだが……。
 いつもの白い鎧の代わりに、真っ黒なレオタードと膝丈の黒いブーツ。
青髪から可愛らしい悪魔の羽が飛び出している。
恥ずかしいのか、背中の大きな翼を掴み、何とか露出を抑えようと奮闘している。
この様子がまた、撫で繰り回したいほど愛らしいのだ!
 この小悪魔は、魅了の魔術の類を一切使わずして、見事に私の心を盗んでいった。
ああ、仮装万歳! ハロウィンよ永遠なれ!

『ハロウィンって、最っ高だな……!!』
「うう、あんまり見ないでよぉ……!
 いくらキャシーさんの頼みとは言っても、限度ってものがあるよね?
 やっぱり断っておけばよかった……!」

 キャシーさんには後日、菓子折りを持ってお礼に行くことが決まった。
いやー、良い仕事してくれましたね!

『フフフ、よいではないか、よいではないか』
「ほ、ほら、お菓子あげるから! お願いだから悪戯はしないでね……?」

 むう、そこまで怯えられるとは思ってなかったな。 ちょっと傷心。
……本当は悪戯したい気が無きにしも非ずだが、これ以上は可哀想だ。

 スピカから、青いコウモリのハンコと手の平大の箱をもらう。
重みからしてケーキかパイだろうか? 彼女に断って箱の蓋を開けると……。

『……スピカ、これは何なのかな?』
「えっと、パンプキンパイだよ。 一応……」

 ……そうか。 スピカがそう言うなら、これはパンプキンパイなんだろう。
たとえオブシディアンの骸にしか見えないとしても、それは私の目の錯覚だ。
粘性を伴う泡が、断面でボコボコ膨らんでは萎むを繰り返す様は、まさに沸き立つ毒沼だが、
これも薄暗い地下洞から帰還したばかりで目が慣れてないせいだ。 きっとそうだ。
何やら黒く禍々しいオーラまで見えるが、絶対幻か何かさ。
 ほら、よく見ろ。 辛うじてカボチャと呼べなくもない、元は鮮やかな黄色だったであろう、
焦茶色の細切れめいたものが申し訳程度にはみ出てるではないか。
……うん、これは正真正銘、紛れもなくパンプキンパイだ。
 私は乾いた笑みを顔に貼り付けたまま、そっと箱の蓋を閉めた。

「ゴメンね、ちょっと失敗しちゃったんだけど……。 あ、材料は間違ってないはずだから!」
『……そっかー。 ちょっと失敗しちゃったのかー』

 材料が間違ってないということは、元はちゃんとした食材でできているということ。
そうだ、これは食べ物なんだ。 恐れることなど、何もない。

「ファイドラはお酒が好きだから、隠し味にワインも入れてみたんだ」
『本当? ……わー、それは嬉しいなー』

 ああ、スピカはなんて良い子なんだろう。 私の好みまで覚えていてくれるなんて!
……ワインだけならもっと嬉しかったかな、うん。

『後でありがたーく戴くことにするよ。 感想は後日、改めて』
「うん、またね! ハッピーハロウィン!」

 ……おお、神よ! これは、邪な思いを捨て去れなかった私への罰ですか!?
流石の私も、彼女の目の前で食べる勇気を奮い立たせることはできなかった。
どこか、そう、例えば腹痛で失神しても問題ない場所で食べることにしよう。
 ……だが。 北西のフェイヨンへ歩を進めながら手元の箱を見つめる。
時間をおけばおくほど、危険物に近付いていったら? そうなったら事だ。
 「捨てればいい」、だって? これを すてるなんてとんでもない!
女の子からもらった食べ物を捨てたら、色んな意味で罰が当たる。


 ……別に、やせ我慢をしているわけではないからな?



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  10月31日 PM2:00  ~フェイヨン 市場入口~

「……ファイドラ、どうしたの、その格好?」
『……トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうゾ!!』
「……ああ! 仮装のつもりなんだね?」
『つもりって言うな! いい大人が恥ずかしいのは百も承知だっての!!』

 恥を掻き捨て、ノリノリでポーズまで決めてアピールした結果がこのザマだ。
ううっ、アルゴルの生暖かい視線が居た堪れない……!

「ごめんね、ファイドラも仮装するかもしれないとは聞いてたけど、
 まさかこんな格好とは思わなくて」
『ねえ、アルゴル、それワザとか? さりげなく心にクることを言うね、君は』

 そんなアルゴルの仮装だが、こっちは正真正銘のミイラ男だ。
もっとも、ファイドラも包帯巻いてるから被ったかと思っちゃったよ、と笑う様子は、
ミイラというおどろおどろしい響きには似つかわしくない程優しげなのだが。
抜けるように白い肌と、所々紅い染みのついた包帯のコントラストが印象的だ。
 彼のハンコは紫色のコウモリだ。 これで丸印の空きはあと一つ。

「ところでファイドラ、キミの持ってるその箱ね、
 さっきから何か禍々しいものが出てきてるように見えるんだけど……」
『ああ、それは幻覚だよ。 疲れてるんじゃないか?』
「え? でも確かに黒い靄が見え……」
『スピカがくれたのはパンプキンパイだから。 誰が何と言おうとカボチャのパイだから。
 断じて暗黒物質とか物体Xとかじゃないから!!』
「……あ、うん。 もういいよ、何となく察したから。
 それじゃ、お菓子をあげようかな。 ファイドラの悪戯は怖そうだしね」
『何ならスティールでお菓子を盗って差し上げてもよろしくってよ?』

 冗談交じりにそう言ったときには、既にお菓子の包みを一つ頂戴している。
自慢じゃないが、盗賊の端くれとしてこれくらいは造作もない。
 鮮やかな黄色の包装紙から、チョコレートのような香りがほんのり漂ってくる。
ちょうど小腹も空いてきたところに、この匂いはなんとも堪らない。
苦笑したアルゴルから、開けてもいいよと言われたので、遠慮なく包みを開き……。

『……アルゴル、これは何なのかな?』
「デイブレイクの新商品、予定、かな。 試作品って言った方がいいかもね」

 奇しくもスピカと同じやりとりをしてしまったが、こればかりは仕方ない。
考えてもみてほしい。 ハロウィン仕様のファンシーな包みの中から、
チョコレートでコーティングされた触手が出て来たら、これは何だと訊ねたくもなるだろう。
 もたもたしていると、うねうねと手首にまとわりついてきた。 まさか、生きてるのか!?
初めてイチゴ味のおにぎりを食べた時以来、いや、それ以上の衝撃に私は打ち震えた。

「干しイカ以外にも、歯を丈夫にできるメニューはないか考えたんだけど、どうかな?」
『何でそれで触手に辿り着いた!? これは見た目からしてイタズラ枠だろう!?』

 絶対スピカには見せられないな、これは。 
クソッ、快速船の中で柄にもなく切ない気分になった私の気持ちをどうしてくれる!

「しっかり噛んでから飲み込んでね。 でないと、お腹の中で暴れるかもしれないから」
『なにそれおぞましい』

 見送るアルゴルの忠告に従って、触手を噛み噛みモロクへ向かって歩き出す。
多少行儀は悪いが、まあ今日は無礼講だ。


 ……うん、案外イケるな、これ。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  10月31日 PM4:00  ~モロク 住宅街~

『…………』
「……何だよ、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれ」
『……ああ、ごめんなさい。 一瞬誰かと思った』

 ここに至って、まだ私の目は正常に機能してないのかと、
そう錯覚するくらい、サビクさんは様変わりしていた。
ドラキュラだろうか。 上背のある彼には、長いマントがよく似合っている。
無精髭を剃り、髪はきちんと整えられて後ろに流している。
口元から小さな牙が覗いているところなんて、本格的だな。

『カッコいいなあ、いいな~……!』
「あんまりジロジロ見るなよ、照れ臭いだろ……」

 矯めつ眇めつ眺めていたら、サビクさんは照れたように頭を掻く。
だが、恥ずかしいのはむしろ私の方だ。 できれば、今からでも代わってほしい。
せめてマントだけでも貸してほしい。 プロンテラを出た時の意気込みはすっかり霧散し、
もはや砂漠の街に立っていても寒いだけだ。 体より、心が。

「それにしても、お前のその恰好って……」
『これに関しては何もツッコまないでくれると、私が泣いて喜びます』
「そ、そうか……、って、もう泣いてるじゃねえか!」
『いいや、私は泣いてない。 この目から流れ出でて頬に伝う滴は、ただの心の汗です』
「……分かった分かった。 クッキーやるから元気出せ、な? レテーナの手作りだぞ」
『ありがたく戴きますが、何で誰も悪戯させてくれないんでしょうか?』
「そりゃあ、何されるか分かったもんじゃねえからだろ」

 まったく、皆して私を何だと思っているのか。
そこまで警戒されるようなことをした覚えは……、多分、無い、と思いたい。
 最後のスタンプは赤いコウモリ。 これですべて揃った。
これを持ってジェメリー邸に戻れば、クエスト完了なのだろうか?


 ……いや、まだやるべきことは残っている。
これを食わずして、私のハロウィンは終わらない!

 私がこの世の終わりのような顔で取り出した箱を見て、サビクさんがギョッとする。
それも当然だろう。 例の黒い靄はほぼ箱全体を覆い尽くしている。
これはもはや、幻覚だとか錯覚だとかで誤魔化せる代物ではなくなっている。

「……スピカのか?」
『……ご名答。 見事正解したあなたには、この箱の中身をプレゼント』
「お前がもらったものだろ。 押しつけるな」
『はいはい冗談です! 分かってる、食べる、食べまーす!!
 ワイン入ってるって言ってたし、大丈夫です。 平気平気!』
「お前のその自信はどこから来るんだ?」

 悪食とまではいかないにしても、それなりにゲテモノ食いの経験もある。
飢えと渇きに負けて、草を食み、土を頬張り、泥水を啜ったことだってある。
汗と涙と血の味にさえ嫌というほど慣れてしまった私に、怖いものなどない。
オブシディアンが何だ。 毒沼が何だってんだ。 冒険者を甘く見てもらっては困る!

『……サビクさん、私が斃れたら灰になるまで燃やして下さい』
「お、おい、待て待て!! 強がりの次は遺言かよ!?」
『離して下さい! 私は……、スピカを裏切るような真似はしたくないんだっ!!』

 どうせ死ぬのなら、私は風になりたい。
そしてモロクの街を巡り、ソグラト砂漠で自由奔放に吹き荒ぶのだ。

 道行く人々が、揉める私達に好奇の視線を投げかけてくる。

「よう、サビク! 何だ何だ、女の子と痴話喧嘩かぁ?」
「違えよ!! コイツの命の瀬戸際なんだよ!!」

 そうですね、熱意とは別の意味で、ハロウィンに命を懸ける人はそうそういないと思います。
だが、私の覚悟は決まっている。 スピカが傷だらけの指で箱を手渡してきた、その時から。
茶化した街人にサビクさんが怒鳴った、その一瞬の隙を突いて、私はパイにかぶりついた。



 味が、無かった。



『ふぁの、味ば……、むぐ、無いんれふけろ……!!?』
「嘘だろ……? どう作ったらそんなことになるんだ……!?」

 不味かったら無理矢理にでも飲み下せば済むことなのだが、まさか無味とは恐れ入った!
もむもむと咀嚼してはみるが、一向に飲み込むタイミングが計れない。
必死に口を動かし、長い長い時を経て、ようやく胃袋に落とし込んだ。

『……食べてみます?』
「遠慮しとく……、って、おい! いらねえっつってんだろ!」
『可愛い妹の手作りですよ!? 私だって食べたんですから、死なばもろとも!!』
「お前そこまで覚悟して……、チッ、何でこんな時だけ馬鹿力なんだよ!?」

 気が変わった。 こんな幻とも言える一品、私一人で味わうのはもったいない。
これは是非とも、サビクさんにも奇跡の瞬間に立ち会ってもらわねば!
……別に、今更ながら独りで人身御供になるのが嫌になったわけではない。

 まあ、今のところ特に体に異常もないし、今回は大丈夫なのではなかろうか。
もしかしたら調理中に、何らかの化学反応と思しきあれやこれやが発生し連鎖した結果、
見た目アレでも無害になったのかもしれないし。

 強いて言うならちょっと体が熱くなってきたくらいかな?
……少し熱すぎるような? それに、何だかボーッとしてきた気がする。

 どうしたんですか、サビクさん。 そんな慌てたような顔して。
私なら大丈夫ですってば。 ちょっと視界が狭まってきた気もするけど。


 あれ、声が聞こえない。 おかしいな、さっきまで普通に聞こえてたんだけどなー。



 うーん、なんだか、すっごく、ねむたいきぶんだ……。 




 おやすみなさーい…………。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 その後、私は3日ばかり寝込んだが、これは単に疲れてただけだ。
奇跡のパンプキンパイに中ったわけではない。 ……決して。




 ハッピーハロウィン!

ファイドラ「ちっともハッピーじゃないんですがそれは」

 女の子の笑顔のためには、何でもやってのけるのが君の良いところだと思うよ(目逸らし)

 ちなみにスタンプラリーの景品は、双子お手製のカボチャ系お菓子詰め合わせでした。
まあ、寝込んじゃったからお見舞いの品に昇華されたけどね。


 タイトルは、英語がからっきしな私が辞書と睨み合った末に難産したもの。
文法よりリズムを大事にしてみた結果がこれだよ!
英語なんてそこらへんの小学生にだって負ける自信があるよ!(ぇ)

 辛口ソースの味云々は、完全に私の妄想ですよ。
でも、地域によって味が違う設定もいいんじゃないかなーと。
フェイヨンが山菜系なら、アユタヤはやっぱり海の幸のエキスが入ってるんだろうなあ。
モロクのは、ひたすら辛さだけを追求した一品とか。
ピラミッド前は色んな地域から来た商人が集まる場所だとも思っているので、
異国の情緒漂う、たとえばインド風のスパイシーなソースだとかでも美味しそう。

 ともあれ、拙文失礼致しました。
 その前にスピカに謝らなきゃいけないかもなぁ。
でも二次元限定でいうならメシマズっ娘は可愛いと思うんですよ。
え、だって、スピカが申し訳なさそうにダークマター差し出して来たら食べるでしょ?
(↑さも当然といったように同意を求めていくスタイル)
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

はっぴーはろうぃん!!!!

 いやー、面白かったです!! 活字嫌いな私が一気に読んでしまう程に!www

 キャラがみんな魅力的に描かれていて、凄いなぁと…!

 しかし、スピカの料理の腕が…!(笑)
 凄すぎじゃないだろうかwwwww
 ここまでくると、もはや芸術の領域ですよね?w


 あと、サビクさん!!!! サビクさぁぁぁぁぁん!!!! サビクさああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!(うるさい

 ドラキュラ伯爵・サビク様を私に下さい!!!!!!!_| ̄|○ノシ☆
 ドラキュラサビクさんならいくらでも悪戯されたいです!!!!


 色っぽいファイドラちゃんがキャラ達に振り回される姿を妄想しつつ、際限なくムフムフしてしまいました…www

はっぴーーーはろうぃーーーん!!!

素敵すぎでしょう・・・こんばんは!!!!
楽しすぎてびっくりしますがなせんせい!!!!

手作りハンコ作るアイアル可愛いいいもふもふファイさんかわいいいい!!!!
葛藤ルファクにレオタード照れスピカさん、ドラキュラサビクさんとめっっちゃ素敵楽しそう面子なのですが!!!個人的にはアルゴルとのやり取りがおかしすぎてふいてしまいましたwwwwwww生暖かい視線wwww漫才かな!?wwwwデイブレイク新メニュー外観だいぶ厳しすぎそうですが移動中もぐもぐしちゃうとかがwwwwwしかもイケちゃうところがwwwwwファイさんの芯からの冒険者魂を見た気持ちになりました(敬服)

ドラキュラサビクさんとの絡みも楽しすぎて…スピカさん健気にとんでもないお料理作りすぎてて…最高でした!!!!楽しい時間をありがとうございましたあああはっぴーーはろうぃーーーんーーーー!!!!(*´▽`*)

Re: はっぴーはろうぃん!!!!

 通りすがりのれの字さん、いつもありがとうございます!(∩´∀`)∩

> 活字嫌いな私
 え、そうだったんですか!? 意外というか何というか…
 ともあれ、楽しんで頂けたのなら幸いでした!

> しかし、スピカの料理の腕が…!(笑)
 ギャグテイストにするつもりだったので、いっそ芸術の域にまで突き抜けてしまえと
 私の中の悪魔が囁いた結果でしたw ごめんねスピカたん(´・ω・`)

> ドラキュラ伯爵・サビク様を私に下さい!!!!!!!_| ̄|○ノシ☆
 成程、サビクさんに血を吸われたいと!(ゲス顔)
 最初はうちの娘が吸血鬼で、サビクさんが狼男のはずだったんですよ。
 で、コンセプトを「うちの娘不憫(笑)」に定めた結果、
 双子の期待と己のプライドに板挟みになるシーンを入れるとしたら、
 やっぱり露出多い方がファイドラは嫌がるだろうなと思い、敢えて交換しました(酷)

> 色っぽいファイドラちゃんがキャラ達に振り回される
 いつも(変態的な意味で)振り回してる気もするので、偶にはこんな役回りでもと。
 「あれはダイスの女神様の気まぐれなんだ」とか
 「変態なのは誰のせいだと思ってるんだ」とか言ってますがアーアーキコエナーイ(∩゚Д゚)

Re: はっぴーーーはろうぃーーーん!!!

 通りすがりのlalaさ… え!!? 街中で有名人とすれ違って二度見した気分ですw

> 手作りハンコ作るアイアル可愛いいいもふもふファイさんかわいいいい!!!!
 二人で色々相談しながら準備していたんだろうな。 楽しみだったんだろうな。
 そんな雰囲気を出してくれる魔法の言葉、それが「手作り」!!
 ここまで想像しちゃったらもう、プライド投げ捨てて仮装でも何でもするよね!
 …という方向に持ち込みたかったのですw
 うちの子は可愛い衣装を着てる可愛い子は好きでも、自分が着るのは嫌がるようです。
 
> 葛藤ルファクにレオタード照れスピカさん
 「ハロウィン」という語から、キャラ毎にパッと思い浮かんだシーンの中でも、
 葛藤ルファクさんはダントツの早さでしたwww 結局ジャックの衣装は着たのかな…?
 照れスピカは、ファイドラにも少しくらい良い思いをさせてもいいかと思ってw
 どうせこの後天国から地獄へ叩き落とすつもりでしたしね(酷)

> 個人的にはアルゴルとのやり取りがおかしすぎてふいてしまいましたwwwwwww
 アルゴル君はやんわりとしたツッコミが武器と見せかけて、いざこっちが油断した時に
 「ん?」と首を傾げざるを得ないセリフをポロッと口にするイメージがあります(ぇ)
 チョコ触手はランドルフさんと一緒に作ったのかもしれませんね。
 イチゴ+おにぎりで美味いと言わしめる人じゃけん、これくらいやってくれるはず(暴論)

> ドラキュラサビクさんとの絡みも楽しすぎて…
 恰好も持ち物もカオスになるであろうこの子を看取って、基、救ってくれる適役は? 
 と考えたら、やっぱりサビクさんが一番思い描きやすかったのでw

   私  「最後くらいサビクお兄ちゃんに甘えてもいいよ、どの道気絶させるけど」
 ファイドラ「この世に救いなんてない(白目)」

 こんな扱いができるのも、半分自分みたいなもんだという甘えがあるからですかね。
sidetitleプロフィールsidetitle

ファイ

Author:ファイ
FF・ROなどのゲームを
ゆるくプレイしております。
シーフ等の盗賊系職が好き。
最近お酒が飲みたくて
仕方ありません。
芋焼酎美味しいよ芋焼酎。

画像はROでブラブラ冒険
inニブルヘイム。
黒猫の人形を盗みに、
単身で乗り込みました。
Base165レベルなら
流石に負けないだろうと
思ったのが私の驕り。
ロードオブデス様と
カプラ前でまさかの遭遇。
驕慢な泥棒娘の躾の為、
わざわざ御登場ですか…

© Gravity Co., Ltd.
& Lee MyoungJin
(studio DTDS).
All rights reserved.
© GungHo Online
Entertainment, Inc.
All Rights Reserved.
当コンテンツの再利用
(再転載・配布など)は、
禁止しています。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QR