メシマズとかもうそんなレベルを超越して

 スピカは料理に関しては、神様(むしろ悪魔?)並みにブッ飛んでても可愛いと思う。
黒煙燻るお鍋の前で、涙目でアワアワしてると可愛い。
ROの世界なら、魔法という摩訶不思議かつ未知の領分があるんだから、
物理法則や化学方程式をあっさり捻じ伏せることも可能なのではないでしょうか。
 「厨房の錬金術師」… うーん、そんなにカッコよくない…w
「中坊」と同音だから、下手すると中二成分だけが無駄に強調される呼び名ですねw

 というわけで(?)、S.S.S.ダイス攻略1周目最終回の記事で立てた、
1st影葱ファイドラ死亡フラグを回収していこうと思います(ぇ)
せっかくのバレンタインですし、SSと言う形で
お料理苦手なスピカちゃん可愛いという歪んだ私の愛を表してみたかったのですが、
肝心のスピカちゃんほとんど出てこないじゃないのバカァ!
という内容なので、読みたくねーよな方はブラウザバックプリーズ!

 有名な児童文学の一つ、大石真さんの『チョコレート戦争』は、
「無実の罪を着せられた子供達VS有名洋菓子店の大人達」の図式ですが、
今回お送りするSSは「シスコン(?)ズVSチョコレート菓子」となりますw
ハロウィン時に上げたSSとリンクする部分もありますが、読まずとも特に問題ないかと。


↓このSSは、全世界の可愛い妹達の為に頑張るお兄ちゃんお姉ちゃんを応援しています

 





  Dangerous Sweets

 2月も中旬。 春を間近に控え、冬の北風は最後の独壇場とばかりに張り切っている。
どんよりと重苦しい空の下、肌を突き刺さんばかりの冷気を纏い、我が物顔で吹き荒ぶ。
 しかし、ここ数日はその風に乗って、女子供の喜びそうな甘ったるい匂いも漂っていた。
鼻腔を擽るチョコレートの香りに、仮面の男・ルファクは何とも言えぬ複雑な面持ちになる。

 本日、バレンタインデー。 とある聖人の命日にして、男女の恋が育まれんとする大切な日。
昨今ではそれが転じ、ある者達は愛を、またある者達は友情を、 
そしてある者達は感謝を、甘いお菓子と共に贈られる特別な日となった。

 ……そして、ある者達にとっては、命を賭すべき試練の日でもある。

 両手をコートのポケットに突っ込んで、ゲフェンの街中を歩くルファクも、
その試練に立ち向かう宿命を背負わされた1人である。
常ならば颯爽と早足で歩く彼が、今は鉛でも詰めたかのような足取りだ。

 やがて、ジェメリー邸の前で足を止めたルファクは、長い長い溜息を吐いた。
情けない話だが、できることなら踵を返して立ち去りたい。
だが、逃げることは許されない。 あの子らのためにも、自分はこの日を生き抜かねば。
 見慣れたはずの屋敷の扉は、地獄の底の関門か。
洒落たポーチの石段は、黄泉の国へと誘うそれか。
既に約束されたも同然の受難を思い、ルファクは再び溜息を吐いてベルを鳴らした。

 そして今、生贄がまた一人、故バレンタインに捧げられる……。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 この屋敷の者達は、一体何処へ行ったのか。 
玄関で執事頭のヴァーナスに丁重に迎え入れられたが、
食堂に通されるまでの間、他の執事や女中は誰一人姿を見せなかった。
こちらでお待ち下さい、と一礼して下がるヴァーナスに、ルファクも目礼で返す。
 食堂の中央には、小さな丸テーブルと4人分の椅子が置かれただけだ。
厨房に繋がる扉の張り紙には、「男子禁制!!」の文字がデカデカと書かれている。

「あ、お兄ちゃん! いらっしゃーい!!」

 チョコレートを鼻先にちょっぴりくっつけたアイリが、その扉から顔を覗かせた。

「……アイリ、顔を拭いた方が良い」
「えっ、うそっ!? 何か付いてる?」

 慌てて顔を擦り、小さな手に付着したチョコレートに、あっと声を上げる。
それをペロリと舐め取ってしまったアイリは、えへへと照れ笑いを浮かべて兄を見上げた。
釣られて、ルファクの表情もほんの少し和らぐ。
 しかし、扉の隙間から漏れる会話は断じて聞き捨てならず、表情を凍り付かせた。

「え、ええっ!!? 何でこうなるの!?」
「スピカさん、大丈夫です! こ、これはこれでキレイだと思うんです!」
「あ、ありがとう、アルナ。 でも、おかしいなあ、ラム酒しか入れてないのに……」
「私も『点滅するチョコレートドリンク』は見たことなかったよ。 凄いよ、スピカ……」
「わーっ! 何それ、きれーい!! 見せて見せて!」
「綺麗……? うん、綺麗、だね……。 ルファクと飲むから、それ半分ちょうだい」

 アイリはキラキラと目を輝かせ、パタパタと厨房に駆け戻っていく。
ルファクが着席して待つこと暫し、ポットとグラスを盆に載せたファイドラが現れた。
糊の利いた白いワイシャツに、真っ黒なカマーベストとパンツを合わせている。
頭のエルダークラウンは何故かそのままだ。 ミスマッチもいいところである。
ルファクと目が合うと口角を持ち上げ、一体何処で覚えたのか、優雅な所作で腰を折る。

「お帰りなさいませ、ルファクお坊ちゃま。 寒空の下、ご足労をおかけしました。
 只今お茶をご用意致しますので、麗しきお嬢様方のお手製菓子をご賞味あれ」

 慇懃な挨拶におちゃらけた口調。 だが、平たく言えば「逃がしてたまるか贄仲間」である。
白けた視線を送ったものの、彼女の笑顔から滲み出る執念に、ルファクは内心気が気でない。

「普段通りに話せ、気色悪い」
「気色悪いとは失敬な。 それより、あんたら揃いも揃って遅いんだよ!
 これでもう4品目だぞ。 遅れた分はとことん付き合ってもらうからな」
「外せない用があっただけだ。 何だ、その恰好は?」
「今日は給仕も兼ねてるんだよ。 へへ、たまにはピシッとした服も悪くないだろ?」

 盗賊に近い職業柄、この手の装いは息が詰まると文句を言いそうなものなのに、
落ち着いた出で立ちは、意外や意外、なかなかどうして様になっている。
もっとも、そんな感想を抱いたところで、ルファクはそれを素直に口にする性分ではない。

「……フン。 ハロウィンの、あの奇々怪々な仮装よりはマシになったな」
「おいやめろ、思い出させるんじゃない!」

 思いもよらぬ奇襲に、ファイドラは胸を押さえてガックリと蹲った。
オーバーなリアクションを取ってしまっては、せっかくの瀟洒な衣装も形無しだ。

「で、そういうあんたは結局着たの? あのジャックの……」
「………………この話は終わりだ」
「あ、着たんだな」

 ここぞとばかりのカウンターに、ルファクの精神も打撃を受ける。
そろそろ潮時、一時休戦だと、二人の間で暗黙の了解が成立した。
 気を取り直したファイドラは、慎重な手つきでポットの中身をグラスに注ぐ。
濃厚な甘い香りを漂わせるそれは、とりわけ王侯貴族に好まれるチョコレートドリンクである。
……種も仕掛けもないのにチカチカ光っているが。 かの王宮料理人・オルレアンも驚愕だ。

「…………何だこれは」
「普通のチョコレートドリンクに、スピカがラム酒を少しだけ混ぜたらこうなった。
 大丈夫か?」
「……どういう意味だ?」
「あんた、お酒ダメだろ? 無理だってんなら私一人で片そうかと思ってさ。
 これ以外にもまだまだ種類があるしね」
「アルナとアイリの作ったものでもあるだろう」

 そう、一体何をどう間違えたのか、目の前の液体は明滅を繰り返しているが、それでも。
スピカの神の手が加わったことで生み出された未確認物体ではあるが、それでも。
他ならぬ可愛い妹達の手作りでもあるのだ。 何を躊躇う必要があるのか。
 はっきり口には出さずとも、ルファクの固い意志はファイドラにも汲み取れた。
元より、彼女も同じ覚悟で試練に臨んでいるのだ。

「……そっか。 分かった! それじゃ、頑張るお兄ちゃんにはこれを贈ろう」

 ポケットに突っ込んでいた小さな巾着の中から、紫色をした汁気たっぷりの実を取り出す。

「アサイーの実様様ってね。 私も何とか腹痛にまで抑えつつ、ここまで漕ぎつけたのさ!」
「………………」

 もはや解毒は必須条件なのか。 それを以てしても尚、腹痛は避けられないのか。
だが今は、この頼りない小さな果実を信じるのみだ。 ルファクは、珍しくも素直に受け取る。
……既に胃がキリキリと痛んでいる気がするが、これは恐らく心労からくる胃炎の類だろう。
 命を託したアサイーを嚥下した後、ルファクは向かいに座った女に、
しかしその実、己自身に言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「いいか、これはチョコレートだ。 光るだけの、至って普通のチョコレートだ……!!」
「……ああ、そうだな! これはチョコ、これはチョコ、酒が入ってりゃ怖くはない!!」

 「普通」のチョコレートは、そもそも光らない。 そんな無粋な指摘は、ここでは不要だ。
求められるのは、不屈の闘志と克己心。 自己暗示は、どれだけ施しても過ぎることはない。
ポリンだって光るご時世だ。 チョコレートが光るのも、新時代の先取りと捉えればいい。 
 2人は示し合わせるわけでもなく、視線を交わし合うわけでもなく、
しかし全く同じタイミングで、グラスを一気に呷った。

 ……数拍後、これまた同時に顔を顰め、ルファクは頭を、ファイドラは鳩尾を抑えて呻いた。

「クッ……! ルファク、私の遺灰はモロクに撒いてくれ……!」
「……断る。 自力で這い上がれ」
「うわー、ルファ君冷たーい」
「そのふざけた呼び名を今すぐ改めろ、さもなくば……!」
「わーった、わーったって! ほんのお茶目じゃないか……」
「俺はここで果てるわけには……! 何としてでも、完食して見せるっ……!!」
「負けてられっか! 美少女達の手作りお菓子だぞ、誰が残すもんかっ……!!」



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 食堂に足を踏み入れるや否や、もう少し早く来るべきだったか、とサビクは臍を噛んだ。
酔っているのか、耳まで真っ赤に染め上げたルファクが力なくテーブルに突っ伏し、
虚ろな目で天井を仰いだファイドラは、腹に手を遣り何やらブツブツと呟いている。

「ほんのちょっぴり入れただけなのに……。 何でだ、何でなんだよぉ……」
「おい、ファイドラ、しっかりしろ!! ルファクも目ェ覚ませ!!」

 ベチベチと頬を叩かれたファイドラの、微妙に焦点の合わない眼差しがサビクへ向けられる。

「ウグッ……、遅かったじゃないですか。 サビクさん、もし私の命が尽きたなら……」
「あーハイハイ、分かってる。 砂漠の風になるんだろ!? いいからとにかく解毒を……」
「私、風になったら女の子のスカート捲るんだ……!」
「現世に未練たらたらじゃねえか、戻って来い!!!」



「本当ですって。 ラム酒を少し入れる前までは、ただの液体チョコだったんですって……!」
「……で、その酒をスピカが入れた途端、チョコが光ったって?
 馬鹿も休み休み、って言いてえところだが、まあ前例が前例だしな……」
「そもそも、本当にラム酒かどうかも怪しいがな。 巡りの早さが尋常ではなかった……!」

 三途の川の1歩手前で魂を押し留めた2人の証言に、サビクは呆れ返るしかない。
だが限りなく近い未来、自分も同じ運命を辿るのは分かっている。
……出掛けに括り直したはずの腹が、今になって痛むのは気のせいか。

 するとそこへ、カチャリと小さな音と共に、厨房の扉が開かれる。
途端、いつ何時再び召されかねなかった2人が俊敏に跳ね起き、サビクは一瞬呆気に取られた。

「……!!?」
「あっ、サビクさん。 いらっしゃいませ!」
「……お、おう。 邪魔してるぜ」

 はたして、扉から顔を覗かせたのはアルナだった。
はにかんだような微笑みを浮かべて、ペコリと会釈をしてくる。
サビクは当たり障りのない挨拶を返しつつも、両脇の2人の変貌に再び瞠目した。
 いつの間に復活を遂げたのか、ルファクはしゃんと背筋を伸ばし、泰然と腕を組んでいる。
酔いが回っていると誰もが一目で分かる表情は、まるで幻のように消え去っていた。

「はいはい、新米執事ファイドラ、ここに推参! 何なりとお申しつけ下さい、アルナ様!!」

 ファイドラに至っては、初めから何事もなかったかのように給仕を務めようとしている。
先程までの、虚無を映したかの如き瞳は何処へやら、だ。

「ファイドラさん、お兄ちゃんは大丈夫ですか? お兄ちゃん、お酒に弱いみたいで……」
「見ての通りピンピンしてるよ。 それで、次は何をすればいい?」
「はい、えっと、もうすぐタルトが焼き上がるので、飾り付けのお手伝いをお願いします」
「りょーかい。 あ、そうだ! またポットのお湯切らしちゃったんだ」
「え……? ついさっき足したばかりですよね?」
「そうなんダヨネー。 なーんか今日は紅茶をしこたま飲みたい気分でさー、アッハッハ……」

 ファイドラは誤魔化すように笑い、さりげなくアルナを促して自分も厨房に入っていく。
扉が閉まると同時に、再びルファクの頭がテーブルに沈んだ。

「あんまり無理はするんじゃねえぞ?」
「……アルナ達に無様な姿など、見せられるものか」
「ああ、そうかい……」

 この先、自分も一芝居打つ必要に迫られるのだろうか。 ……平静を保てる自信はないが。



 暫くして、新しいティーポットとタルトの皿を盆に載せ、ファイドラが戻ってきた。
何故か、少しばかり安堵したような表情を浮かべている。

「『普通に』切り分けられましたよ! これなら大丈夫かも」

 その程度で喜べる時点で、彼女の感覚が相当麻痺しているのは疑いようもないが、
他人事なのも所詮今のうちだけと分かっているサビクは、揶揄も茶々も入れる気にはなれない。
 だが、彼女の気持ちは痛いほど分かる。 4つ切りのタルトの見た目は、確かに「普通」だ。
瘴気の発生もなく、断面から未知なる世界の欠片が見受けられる、ということもない。
今度の菓子はまともだろう。 そんな期待もあいまってのことだったのか。
ファイドラが嬉々としてタルトに差し込もうとしたフォークは、少々勢いが良すぎた。

 ガキイイイィン!!

 お菓子を戴く物音にしては、あまりにも不釣り合いな金属音。 6つの目が一点に集中する。
……そこには、哀れにもグニャリと折れ曲がったフォークが晒されていた。

「さっきまで普通の柔らかさだったのに……」
「……時間をおいたのが悪かったんじゃねえのか?」
「……切り分けてから5分と経っていないだろう」
「へえ、チョコ菓子の分際でなかなかやるじゃない。 でもな、私だって冒険者の端くれだ!
 立ちはだかる敵は、斬るのみ!!!」

 ファイドラはユラリと立ち上がり、並々ならぬ決意の光を浮かべた目でサビクを見る。

「見届けて下さい、サビクさん。 今日までの、あなたとの手合わせで得た力……!
 今ここで、全て出し切るっ!!!」
「少なくとも、こんなことのためにお前に稽古をつけた覚えは、俺には無いん……」
「いざ、尋常に勝負!!!」
「聞けよ!!」

 台詞だけなら殺陣芝居のクライマックスでも彷彿とさせるが、忘れてはならない。
相対するのは、魔物どころか生物ですらない、ただの菓子なのだ。
しかし、ファイドラがタルトに送る視線は、今や未知なる化け物へ向けるそれと大差ない。
 腰のベルトからスラリと引き抜かれた短剣に、ルファクは珍しく興味をそそられた様子だ。

「……『スクサマッド』か」
「お、さっすがルファク! お目が高い!」
「へえ、普通のナイフに見えるけどな。 そんなに珍しいのか?」
「とある砂漠の部族にしか製法が伝承されない、特殊な短剣だ。
 なんでも、『絶対に壊れない』ことが自慢らしい」
「ふふふ、チョコタルトよ、これでお前も年貢の納め時だ!! 覚悟っ!!!」
(コイツは一体何と闘ってんだ?)
(完全に目が据わっているな)

 闘争本能を煽り立てる熱い狂気と、情け容赦の一切合切をかなぐり捨てた冷たい殺気。
短剣を握った右手に、それらを余すことなく集約させ、渾身の力で振り下ろした。

バキィッ!!!

 世にも不吉な音が食堂に鳴り響き、3人の耳朶を打つ。
信じ難い、しかしこの場の誰もが心の何処かで覚悟はしていたのかもしれない、
そんな光景が瞬時にテーブルの上で展開された。
頭が状況を理解するよりも先に、研ぎ澄まされた戦士の本能が身体を突き動かす。
実戦経験で身に染みついた危機察知能力、長い訓練生活に裏付けされた類稀なる動体視力、
そして、凡夫とは一線を画す水準に達した反射神経。
刹那の後、己の眼前に飛来した短剣の刃を、ルファクは寸でのところで掴み取っていた。

 石像のように固まったまま押し黙る3人。 シン……、と静まり返る食堂。
厨房から微かに聞こえる女性陣のはしゃぎ声さえ、全く現実味を帯びぬ音の羅列となる。
 3人の視線だけが、ルファクの拳からファイドラの右手へ、ゆっくりと流れる。
タルトに突き立ったはずのスクサマッドは、無残にもポッキリと折れていた。
柄のみを主人の手に残して……。

「…………『絶対に壊れねえ』んじゃなかったのか?」
「…………知るか。 俺が作ったわけではないからな」
「…………ゴメン、ルファク。 悪気は無かったんだ」

 もしもスクサマッドに意志が宿っていたならば、そして人の言葉を解したなら、
「まさか菓子の切り分けで、我が生に幕を下ろすとは思わない」と盛大に抗議しただろう。

「何で皿は無事なんだろうな?」
「もう私は物理法則なんて信じませんからね」

 ルファクに至っては、現状に言及する気力もとうに失せたらしい。
何も言わずに折れた刃をファイドラに突き出した。
あんがとさん、と受け取った彼女の表情も、流石に暗鬱たるものだ。

 「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がある。
たとえ凡人でも三人集まれば、文殊菩薩にも引けを取らぬ素晴らしい知恵を生み出せる。
ましてや彼らはタイプこそ違えど、各々がその人生の大半に亘って戦闘経験を積み重ねてきた、
いわば戦いのプロフェッショナルなのだ。
 それがどうだ。 見た目こそ何の変哲もない、むしろ可愛らしいチョコレート菓子を相手に、
怖気を震い、得物をへし折られ、完全に攻めあぐねている。
……さて、どうしたものか、この金剛不壊のサムシング。
 ルファクは完全に酔いが醒めきったわけではないらしく、時折鬱陶しそうに頭を振っている。
ファイドラは既にタルト攻略法の追究を放棄し、短剣の修理費算出へと逃避を始めている。
首を捻ること数十秒、悲壮な面持ちのサビクがおもむろに口火を切った。

「……一応、タルトだしな。 紅茶でふやかせば、あるいは……、イケそうじゃないか?」
「あなたは、まだ『コレ』がタルトに見えるとおっしゃるか?」
「ふやけると思うのか、『コレ』が?」

 百歩譲って飲み下せたとしても、はたして消化器官は無事なのだろうか。

「んなこと言ったって、他に手立てはねえだろうが」
「……まあ、確かに。 そろそろ腹括らなくちゃね。
 それに、まだこちらの手札も捨てたもんじゃないですよ。 テッテレー!」
「……『万能薬』か?」
「うん。 これさえあれば、吐血レベルで事なきを得られるんじゃないかと」
「何一つ事なくなってねえな。 むしろ一大事だな」

 親指をグッと立て、キリリと言い切ったファイドラに、サビクは冷静に言い返したのだった。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 視界に飛び込んできた地獄絵図に、アルゴルは食堂の入口で立ち竦むことを余儀なくされた。
ルファク、顔色が青を通り越して真っ白なんだけど、大丈夫?
兄さん、どうして脂汗を浮かべてお腹を抑えてるの?
ファイドラ、口の端から何か赤いものが滴っているけど、まさか血じゃないよね?

「ゲホッ……、アルゴル、私はもう駄目だ……! 後は、頼んだ……!」
「ファ、ファイドラ!? ほら、しっかり気を保って!!」
「モロクの砂になって、女の子に踏まれたいな……!
 そのままパンモロも狙えるなら一石二鳥じゃないか、ウヘヘ……!」
「……ねえ、最近のキミはどんどん危ない道に向かってないかい?」
「フン、常日頃と変わらん。 ……ウップ」
「アルゴル、残念だけどな、結構前からコイツはこんなもんだぞ? 
 痛っつ……! クソッ、冗談キツいにも程があるぜ……!」
「え、えぇ……?」
「うぅ、2人とも酷いや……! 私の味方は君だけだよ、アルゴル」
「あ、うん、大丈夫だよ。 ボクはキミの味方だから……」
「……あれ、何で引いてるの? 何で視線を逸らすの? ねえ、ちょっと!?」

 心持ち後退ったアルゴルにファイドラが詰め寄ったその時、厨房の扉が三度開かれる。
額に薄汗を滲ませ、息を弾ませたスピカが姿を見せた。
どうやら長く続いた製作陣の奮戦も、いよいよ佳境に入ったらしい。

「あ、アルゴルも来てるんだね! これで全員揃ったかな?」
「ス、スピカ! 大変なんだよ!! 皆が……、いっ!!?」
「あああーっ!! 給仕のお時間ですね合点承知ですスピカお嬢様あああ!!!」
「……? 今、何か『大変』だって聞こえたような……」
「食べる手が休まらなくて『大変』だってな! そう言いたいんだよな、アルゴル!?」
「……え? あ、ああ、そうなんだよ! スピカも上達しているみたいで何よりだね!」

 知らずのうちに地雷原に踏み込みかけたアルゴルのふくらはぎを、
テーブルの下から咄嗟に脚を伸ばしたルファクが、最小限かつ鋭い動作で蹴り飛ばす。
それと同時に、ファイドラが大仰な身振りで立ち上がり、スピカの注意を2人から逸らす。
サビクが「余計な事は言うな」と言外に訴えるフォローの後、念を押すようにアルゴルを睨む。
流石にここまでされれば、元々聡いアルゴルのことだ。 3人の行動の意味を瞬時に把握できる。
その後は脚の痛みなどおくびにも出さずにサビクに同意し、完璧な笑顔をスピカに向けた。
幾度も修羅場を潜ってきた者達だからこそできた連携だ。 実戦では欠片も役に立たないが。



 スピカが厨房に戻っていくと、4人はその場で脱力する。

「……サビクさん、あの言い訳はちょっと苦しい」
「しょうがねえだろ、取り繕えただけありがたいと思え」
「ね、ねえルファク、さっきのは痛かったよ……?」
「のこのこと地雷を踏みに行った貴様が悪い」

 今はルファクとて、物理的なツッコミの加減にまで斟酌してやれる余裕もないのだ。
オリデオコンも真っ青な硬度を誇るタルトは、3人の戦士に絶大なダメージを与えたのである。

「一体どうしてこんなことに……?」

 アルゴルの問いには直接答えず、3人は一瞬だけ顔を見合わせた後、
唯一手付かずで残されたタルトの最後の一切れを指さした。

「ちゃんと君の分も残しておいたよ。 遠慮せずにお食べ」
「いいか、くれぐれも逃げようなどとは思うな」
「紅茶と一緒に食うんだぞ。 でなきゃどうなっても知らねえぞ?」
「え、そんなに危険なの、これ!?」

 ……十数分後、そこにはお行儀良く座ったまま痙攣するアルゴルの姿があった。
それでもしっかり完食しているあたり、彼もまた「漢」だったということだろう。
 しかし、消耗戦にはいずれ限界が訪れる。 最悪の場合、4人仲良く生ける屍まっしぐらだ。
そう言えば、とアルゴルは痺れかけた舌を何とか動かし、浮かび上がった疑問を口にする。

「スピカ達は、チョコを食べてるのかな?」
「そりゃあ、味見くらいはしてるだろ。 ……多分な」
「あーあー、お兄さん達。 ここで残念なお知らせがあります。
 ただいま厨房で奮闘中のお嬢さん方、3人とも味見をしてはいるんですが……」
「待て、アルナとアイリも、だと? 貴様、それを黙って見ていたというのか!?」
「はいはいお兄ちゃん、落ち着いて。 懸念はよーく分かってるから!」

 途端に色をなしたルファクを押し止め、ファイドラは扉にチラリと視線を遣って話し出す。
怪談でもするかのように声のトーンを押し下げるので、自然と4人は顔を寄せ合う形となった。

「ルファクが来る前にも何種類か作ってたんだけどさ。
 ハロウィンの二の舞は御免だから、スピカから絶対に目を離さなかったわけよ。
 ……でも、おかしいんだ。 例えば、最初に作った『ストロベリーチョコ』とか。
 ちょっと危なっかしいところはあったけど、ちゃんとレシピ通りに進めてるんだ、スピカ」

 覚束ない包丁捌きで、しかし丁寧にチョコを刻み、湯煎で溶かし、イチゴにかけて冷やす。
至って平和で微笑ましい、ごくごく『普通』の調理風景だったのである。
スマイルマスクの愛嬌ある笑顔を模したはずのデコレーションが、
何故かニブルヘイムの霊魂・キューブのように不気味なそれに変わり果ててはいたものの、
双子はカワイイ、カワイイと褒めちぎりながら、率先して味見をしたのである。

「私としたことが、2人が食べる前に止められなくてさ、これはマズいと思ったんだ。
 ……ところが、だ。 あの2人、何て言ったと思う?」


『……すっごくおいしーい!! スピカお姉ちゃん、ちゃーんと上達してるじゃん!!』
『うん、本当においしい……! あの、ファイドラさんも、どうですか?』


「スピカも『美味しくできて良かったよー!』って嬉し泣きしかねないはしゃぎっぷりでさ。
 だから私も安心しちゃって、アルナに言われるがままにチョコを口に入れたんだ……」
「……それで、どうなったの?」

 固唾を呑んで聞き入る他2人に代わって、アルゴルが恐る恐る先を促す。
ファイドラはフッと、自嘲の笑みを浮かべて吐き捨てた。

「頭蓋の内側から一発ガツンと殴りつけられたような、それくらい強烈な眩暈に襲われて!
 次の瞬間には無様に寝っ転がって、厨房の照明を見上げてましたとさ!!」
「う、うわぁ…………」
「………………」
「『あまりの美味しさにビックリして、テーブルに膝打ち付けて転んだ』って誤魔化したよ」
「……まあアレだ、その、……お疲れさん」

 その後も何故か、女性陣で自分だけが災難を被るという、
理不尽もここに極まれりな現象が続いたのである。
彼女の口から恐ろしい顛末が語られた後、男3人はスピカの料理に対する持論を展開する。

「……これは既に、得手不得手などという次元の話でないのは明白だ。
 信じ難いが、人の手に負える問題じゃない」
「何かこう、スピカには性質の悪いモンでも憑いてるんじゃねえかって、心配になってきたな」
「うーん、いっそアマツに連れて行って、お祓いしてもらった方が良いのかな?」
「あ、その時はスピカに巫女服着せたいので、一緒に連れてって下さいアルゴルお義兄様」
「貴様という奴は、隙あらば暢気な台詞をぬけぬけと……!」
「転んでもタダで起きる気ねえもんな」
「だって、盗賊ですから。 ……こうなったら、最後の切り札を出すしかないな!」

 ファイドラはそう言うと、胸ポケットから薄緑色の錠剤が詰まった小瓶を取り出す。
その清涼たる色合いは、起死回生の希望を象徴するようでもあった。

「ギロチンクロスの『解毒剤』、どこまで効くか試してみようじゃないか!!」
「ほ、本当に最終手段だね……」
「……貴様はこの半日で、一体どれ程身銭を切るつもりだ?」
「心配ご無用。 宵越しの金はそうそう持たない主義だけど、この日のために貯金したんだ。
 ハロウィンの後で、私はようやく学んだのさ。 ……『地獄の沙汰も金次第』ってね!!」
「できることなら、地獄に来る前に手は打っておいてほしかったな」
「ねえサビクさん、私がそれをやらなかったとでも?
 この日のために、ちゃーんとゲテモノ食いまくって耐性つけてきましたとも」
「何でそっちの方向に頑張っちまったんだよ……」

 こうして4人は、半ば自棄っぱちになりながらも、最後に残った一縷の望みに縋り、
次の敵、否、試作品を今か今かと待ち構えるのであった……。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「う、うう……! お、お腹が痛い……!
 ファイドラが解毒剤を持ってなかったら、今頃どうなってたか……」
「何故だ……? 何故アルナとアイリは平気なんだ……?
 いや、あの2人が無事なら、俺はそれでいい……」
「……わー、ほら見て皆。 あそこにひときわ綺麗な星が!」
「おい、見るなよ。 あれは死兆星だぞ」

 日もとっぷりと更けた頃、4人の戦士は蹌踉たる足取りでジェメリー邸を後にした。
時折様子を見に食堂へやってくる製作陣には、笑顔で誤魔化し取り繕いつつ、
最後の一つまでありがたく腹に収めたのであった。
 一方アルナとアイリは、チョコレートを口にしても、何の不調も来さなかったという。
結局、チョコの怪異は解決せぬまま、波乱に満ちた試食会はお開きとなったのだ。

「それじゃ、皆、お疲れ様! 来年までにはスピカの料理の謎を解き明かして、
 今度こそ安全にチョコレートをもらえるよう尽力しましょう!!」

 バレンタインには些か似つかわしくない重みを伴う抱負をファイドラが述べたのを機に、
4人はそれぞれ四方に別れ……、ようとして、数歩歩いて立ち止まる。

 アルゴルは、自身のフードの中を探った。
歩を進めるたびに、何か硬く角ばったものが背に当たるような感触を覚えたのだ。

「…………あっ!」

 はたして、そこから取り出されたのは、白い包装紙に包まれた手の平大の小箱だった。
金色のリボンには「Happy Valentine's Day!!」と細かく刺繍されている。
 思わず顔を上げると、同じようにしてこちらを見るサビクとルファクがいた。
2人もポケットに違和感を覚えて立ち止まり、同様に小箱の存在に気付いたのである。
しかし最後の一人は、今しがた別れたばかりだというのに影も形もない。

「ねえ、ファイドラ。 これって……、あれ?」
「……逃げ足だけは速いな」
「ははっ、礼はまた今度、だな」

 夜目のよく利く星月夜でありながら、見事に3人を出し抜いて姿をくらませた盗賊に、
男達は苦笑と溜息を漏らすのであった。




 2017年2月現在、1st影葱ファイドラのVITは1ですが、
そのなけなしのポイントは胃袋に割り振られているのかもしれません。
後は気合根性が加算されてるでしょうね。
↓以下、このSSを書く上で発生したネタのあれこれ。

 男性陣+自キャラに主軸を置いてみました。 女性陣は残念ながら、1シーンのみの登場です。
でも、鼻先にチョコくっつけて、扉から顔だけ覗かせるアイリは是非描写したかった!
だって、かわええじゃないですか。 脳内で妄想するだけでも笑顔になれますフヒヒw
チョコをペロペロしちゃうのもいいじゃないですか。
お嬢様らしからぬ、ちょっぴりお行儀悪い振舞いもいいじゃないですか。
むしろ私がアイリちゃんをprprしm(殴

 日本の神話に、山の女神は悋気持ちで、女性の入山を嫌がるというものがある。
⇒八百万の神がいるんだから、料理の神様や精霊がいてもいいんじゃないか? ROの世界にも!
⇒料理の神様がスピカちゃん大好きな男神だったらどうだろう?
⇒スピカが男性のために作る料理は、ふとしたきっかけで破壊力抜群になったりして。
 女性相手なら、普通に経験値が足りないだけで、頑張ればちゃんと美味しくなったりして!
ファイドラ「ちょっと待って、私は? 何で飯テロアタック(EDP済)受けてるの!?」
⇒神様に第1級危険人物認定でもされてるんじゃないの?(適当)
 中の人と自キャラの区別がつかなくなる勢いでハアハア言ってたからね、シカタナイネ!

 拙宅のSSに登場するスピカは、近いうちにお祓いさせなきゃいけませんね。


 今回の男性陣との関係描写として、こだわりって程ではありませんが、一つ仕掛けを。
所々「」内の文字数が同じになるように調整してます。
この場ではただ一蓮托生であるという連帯感を表現できないかな、と。
 最後の男性陣にチョコを渡すシーンは、中の人の奇妙な恥ずかしさも手伝って、
ファイドラには渡すだけ渡して逃走してもらいました。
プレゼントこっそり渡して闇に消えるって、ちょっと怪盗っぽくていいなと思ったのでw
まあ、寒いのが苦手なので、すぐにモロクに帰るでしょうね。
そしてチョコを渡した面々にお礼言われて、柄にもないことしたなって照れるだろうなと。
 死兆星って「アルコル」とも呼ばれるらしいですね。
ペルセウス座の「アルゴル」とは全くの別物ですが、一瞬ヒエッとなったのは秘密です。

 一番悩んだのがタイトルでした。 神様、私にセンスをくださいorz


 リアルのバレンタインは面倒ですが、彼らと一緒に祝えるのなら悪くない!
むしろイイ!! ハッピーバレンタイン!!!
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こんなに緊迫感のあるバレンタイン話は初めて見ましたwwww

 こちらに来る前に、「夢幻の迷宮」のアレンジ曲「塔を駆ける律動」をダウンロードしてきたのでそれを流し聴きしながら拝読していたのですが、読み進めていくちに、凄く危機迫った曲に聴こえてきましたwwwww

 というコメントを称賛に代えて感想とさせていただきます(何

 いやぁ… もう常識をはるかに超越した料理人に成長してしまったのですね、スピカさん…w

 そして、渡すだけ渡して去って行ってしまうファイドラさんがかわいすぎでしたw
 うおおおおとうさん娘さんをry

Re: こんなに緊迫感のあるバレンタイン話は初めて見ましたwwww

 通りすがりのれの字さん、コメありですよー!
スピカちゃんに謝るべきか、犠牲となった男性陣に謝るべきか… 両方ですかね

> 「夢幻の迷宮」のアレンジ曲「塔を駆ける律動」
 というわけで、私も聴いてきました! 曲調はフラメンコ風らしいですね。
 月光に照らされた砂漠の真ん中で踊っているような、そんな情景を思い浮かべました。
 こういう曲好きだなぁ…!

> 常識をはるかに超越した料理人に成長してしまったのですね、スピカさん…w
 スピカ、あなた憑かれてるのよorz
 常識を超えた相手には非常識なくらい重い愛で対抗せざるを得ないのですよ(ぇ)

> うおおおおとうさん娘さんをry
 娘はやれん!!(←お前が父かよ)
 こんな手癖の悪い娘を嫁に出したら大惨事になる未来しか…!
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ファイ

Author:ファイ
FF・ROなどのゲームを
ゆるくプレイしております。
シーフ等の盗賊系職が好き。
在宅ワークしたい。
物理的にバイトができない
現状に頭痛がする…

画像はROでブラブラ冒険
inフレイムヴァレー。
GXがクエスト回収中に
炎火のモロクの現身に遭遇、
他MOBにも邪魔されつつ
返り討ちにした一枚。
毒瓶結構使ったなぁ。
まさか一人で倒せるとは
思いませんでした。
少しずつ、少しずつ、
強くなるこの感覚がイイ。

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